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短歌の教え方

※小学6年生のクラスに短歌の作り方を教えた際のレジメを元にしています。

はじめに

いくつかの短歌大会に関るようになり今年は約2万首の小中高生の作った短歌を読むようになりました。小学生の身長で見た景色は楽しくて、校庭を駆け回り海に飛び込む動詞が豊かな中高生の歌には心を熱くし、楽しく読んでいるのですが実は上の写真のような「楽しみは〜」で始まる歌が全体の1/10くらいあります。

 

聞くところによると国語の教材で橘曙覧の独楽吟が教科書の便覧に載っているらしく、それに沿って教えている場合があるそうです。 「初めての短歌を作る」「とりあえず作ってみる」のが目的であれば橘曙覧を真似るのは一つのやり方だと思うのですが、この形で作られた作品にはなかなか差が出ず賞に入れる事に苦心しています。そして何より小中高生のみずみずしい感性が「楽しみは〜」の型にはめられて1000首も2000首も届くのを少しさびしく感じています。

 

このページでは私が小学6年生に短歌の作り方を教えた際のレジメを下敷きに短歌の作り方の教え方を書きました。これに加えて名歌を紹介したり、歌会を加えたりして短歌の授業を行っています。ご参考にしていただけたら幸いです。

(また特別授業の依頼も大歓迎です。児童生徒相手の講義は交通費程度で行っています。)

1.短歌にするテーマを決める

まず児童生徒が最近一番心が動いたものをテーマに選んでください。

楽しかったこと、嬉しかったこと、美味しかったこと、寂しかったこと、苦しかったこと、悔しかったこと。何でもOKです。印象強く、よく覚えているものをテーマにしましょう。

 

野球の試合で負けてしまった

合唱コンクールで優勝した

ラムネが美味しかった

2.テーマの瞬間を切り取ってみる

短歌は短い時間を表現してあげるとシャープないい歌になります。

 

野球をテーマに選んだ子ならば勝った負けたという結果ではなくもっと短い時間、例えばバットを握ってボールに向かう瞬間や、マウンドに立って決意をした瞬間などを自分の言葉で表現させてください。

合唱をテーマにする子ならば優勝したという結果や、目標に向けて頑張るぞという気持ちではなく、舞台に立って指揮者の指揮棒に集中しているときの感覚を自分の言葉で表現させましょう。

 

短歌を作る作業は普段言葉にしないものを言語化する作業でもあります。

細かく細かく描いてゆくと、そこに美が生まれます。また相手に伝わるいい表現になります。

 

バットを握ってピッチャーと向き合っている

指揮者の指揮棒が下がるのを待っている

ラムネのビー玉がカランと鳴った

3.その時感じた事を言語化させる

 

テーマの瞬間に感じたことを書かせてください。

特別な瞬間だから見えた物や感じたものがあるはずです。

その時どんな風や匂いを感じましたか?景色がどんな風に見えましたか?

 

大げさでも大丈夫。フィクションでも構いません。

感じ方は人それぞれ。表現が大げさかどうか、フィクションかどうかは他人にはわかりません。

短歌の一番楽しい部分なので自由に書かせてあげてください。

独自の表現であればあるほどいい短歌になります。

 

野球 :ホームランを打ちたい・逆転サヨナラを想像してる

合唱 :指揮棒が動くのを息を止めて待っている・早く動いてほしい

ラムネ:キンキンに冷たい・今年も夏が来たなぁと思った

 

 

4.短歌にしてみよう

短歌の基本構造は〈情景〉と〈叙情〉の組み合わせです。

2で作った〈状況〉と 3で作った〈気持ち〉を組み合わせてみましょう。

 

バットを握ってピッチャーと向き合っている 逆転サヨナラホームランを想像してる

指揮棒が上がるのを待っている 息を止めて、緊張しながら

カランと鳴るラムネ瓶 今年も夏が来たなぁ

 

どうでしょう、場面が見えて、気持ちも伝わってくる。短歌の形になりはじめました。

このまま言葉を整えながら57577の形にしてもいいですし、上下を入れ替えたり、言葉が足りなければ季節や時間を入れて状況を細やかにしたり、専門用語を入れたりして形を整えてみましょう。

 

直球を待って握っているバット 逆転サヨナラ思い描いて

沈黙のなか息を溜め待つているキラリと上がる君の指揮棒

期末明け一気に飲んだラムネ瓶からんと鳴らして夏を始める

 

上記の例は実際に児童と僕が2時間の授業でつくった短歌です。

歌の形に整える作業は少しむずかしいかもしれません。

短歌を読み込んでいないでしょうし、助詞や自動詞、他動詞の知識が無いとうまくできない場合があります。少しむずかしい部分ですが個別に教えながら作業をしてあげてください。

 

 

5.ポイント

短歌が面白い作品になるかつまらない作品になるかは、上の句と下の句のつながり具合が大きく影響します。内容が近すぎるとつまらない。遠すぎると意味が伝わらない。微妙な距離がとれると面白い短歌になります。

 

はじめは2の〈状況〉も3の〈気持ち〉も複数書かせていろいろ組み合わせを試してみてください。

また別の子の上の句や下の句をくっつけると面白い作品が生まれたりします。

 

直球を待って握っているバット 逆転サヨナラ思い描いて

期末明け一気に飲んだラムネ瓶からんと鳴らして夏を始める

         ↓

直球を待って握っているバット からんと鳴らして夏を始める