添削例 1

▶Kさんの投稿
・リハビリに向かう車窓のかすむ富士夕辺黒ぐろ脱皮し迫り来

  

▷添削メール
リハビリおつかれさまです。手のお具合いかがでしょうか。
お歌、静岡の景色が伝わってきていいと思いました。夕方の富士山を「脱皮」と表現したのは秀逸だと思いました。
上の句ですが「リハビリ」という言葉を入れた歌をKさんは既に多く詠まれていますので、このお歌では富士山の情景や独自の表現の方を活かしてあげると良いかと思います。
 
・霞みつつ夕べの富士は黒ぐろと脱皮するごと迫りて来たり
夕暮れの富士山をしっかりと描いてあげることで、迫力ある情景が描けそうです。このままでも良いのですが短歌ですので句切れを作って上げましょう。
・霞みつつ夕べの富士は迫り来る脱皮せしごとくろぐろとして
倒置をして句切れを入れたことで短歌としての骨格が立ち上がってきました。いかがでしょうか。

 


添削例 2

▶Aさんの歌

ラグビーのワールドカップの会場に駆け抜くトライ肌に決めたり

 

 

▷添削メール

ラグビーワールドカップ、盛り上がっていますね!

我が家でも父がライブ放送と録画再生で1試合を2回観ています(笑)

頂いたお歌、動詞が効いていて、また臨場感もあっていいですね。

 

ただ結句の読みで少し悩みました。結句は「Oさんの肌にトライを決めた」という意味でしょうか?もしくは「さまざまな人種」という意味でしょうか。
Oさんの肌にトライを決める場合は結句を変えて
・ラグビーのワールドカップの会場を駆け抜くトライ 我の肌にも
としてあげると良いかと思います。結句が自分の肌になるので上の句を広い景を活かしました。また、様々な人種の場合は 会場の情報を抜いて、

 

・さまざまな色の肌持つ男らが芝を駆け抜けトライ決めたり
とフィールドに焦点を絞ってあげると臨場感が増します。
臨場感を出す場合は「たり」は少し間延びしているかもしれません。
さまざまな色の肌持つ男らが芝を駆け抜けいまトライしつ
でいかがでしょうか。上の句は細やかに、感覚的に表現してみました。

 


添削例 3

▶Sさんの歌
軍靴の音遠き頃のアルバムに蝶々髷の私が笑ふ

 

▷添削メール
可愛らしい歌ですね。「軍靴」「蝶々髷」、私にはとても新鮮でした。本来はつながりが薄い名詞が「アルバム」で上手く結ばれているのが魅力的です。
私も良く注意されるのですが、「遠き」という言葉を短歌に用いる時は注意が必要です。どんな言葉にもついてしまうので読者に既視感を抱かせてしまいます。また「遠い」は「軍靴」や「アルバム」と近い言葉なので並ぶとやや慣用句的なムードが出てしまいます。
 
・軍靴の音混じらせてアルバムに蝶々髷の私が笑ふ
 
「遠い」を使わずに表現してみました。アルバムを軸とした統一感をより強く出せたと思うのですがいかがでしょうか。
また短歌的な魅力として倒置を入れ
 
・アルバムを開けば軍靴聞き紛ふ蝶々髷の私が笑ふ
 
とするのも短歌的な面白さがあるかと思います。いかがでしょうか。

 



講演やワークショップでの添削

・タッチアンドゴウを繰り返す爆音よ那覇は尖閣諸島近し
沖縄を舞台とした時事詠ですね。難しい時事詠、社会詠に果敢に挑戦した部分を評価させていただきました。
字余りですが勢いのある初句は魅力的です。二句は「ゴウ繰り返す」と定型にしてみましょう。結句が6音字足らずになっていてもったいない。
「諸島近くて」などでいかがでしょうか。
・タッチアンドゴウ繰り返す爆音よ那覇は尖閣諸島近くて
・店頭に幟りはためく夏土用うなぎは宙にのぼりくだりす
上の句が場面設定、下の句が描写の構造の歌ですね。下の句の描写が可愛らしいですね。
四句は「うなぎが」のほうがよいかでしょうか。
 
・店頭に幟りはためく夏土用うなぎが宙にのぼりくだりする
・サァーッシューッピューッ午前3時の星空に5個見つけたよ流星群
初句「サァーッシューッピューッ」が魅力的です。
結句の字足らずはできるだけ避けたいので「流星群に」として定型にするのはいかがでしょうか。
・サァーッシューッピューッ午前3時の星空に5個見つけたよ流星群に

 

・まひるまの星を間引いてゆくやうにたわわに成りし枇杷を捥ぎたり
上の句が下の句の具体の比喩の歌ですね。「星を間引く」が面白いです。
「まひるまの星=枇杷」という構造もなるほどと納得させられました。
果実なので「成りし」ではなく「生りし」でしょうか。
また枇杷を捥ぐ行為の時制は「捥ぎたり」でたった今ですので「生りし」より「生(な)れる」のほうが自然です。
・まひるまの星を間引いてゆくやうにたわわに生れる枇杷を捥ぎたり
・街はずれトンテキあてに昼の酒許したまへよドライバーたち
おどけたユーモアの歌です。上の句で助詞を省いているため不用意な体言止めになっている部分があります。
「トンテキをアテに昼から酒を飲む」などはいかがでしょうか。
どうしても「街はずれ」を使うなら、字余りになっても「街はずれに」と助詞を入れる。
・トンテキをアテに昼から酒を飲む許したまへよドライバーたち
・山裾の寺のお墓に眠る友 仏画に残る彼の生き様
 
生前の意思が筆致に遺っている、という歌意かと読みました。お寺に眠るとつながり、「彼」の雰囲気が読者にも伝わってきます。
歌としては三句切れと結句が両方が名詞で終わっているのがもったいないかと思いました。
結句の方を動詞に変えて
・山裾の寺のお墓に眠る友 仏画に彼の人生を見る
としてはどうでしょうか。
・風に舞う忘れられたる干し物の竿の上月は清かにのぼる  
洗濯物の騒がしさと静かな月が対比されている歌と読みました。日常と空のつながりがきれい。
「風に舞う」「忘れられたる」と「干し物」を修飾する言葉が2つバラバラに重なっているのがやや気になりました。
「忘れられ風に舞いたる干し物」と時系列を作ってあげるとスッと読めるかと。
「竿の上月は清かにのぼる」は窮屈かと。清々しく静かな一首の印象と、リズムが矛盾しているように思いました。

  

・忘れられ風に舞いたる干し物を見下ろし月は清かにのぼる
・忘れられ風に舞いたる干し物を見下ろし月はのぼる 清かに

 

などはいかがでしょうか。